大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

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研究所だより

19号(2021年秋号)英語 e-learning の研究活動

服部孝彦


「研究所だより」19号では、本学におけるこれまでの英語 e-learning の研究活動について述べます。筆者は、学生を導く新しい学び方という考えに基づき、英語 e-learning の実践的研究を英語 e-learning システムが大妻の全学に導入された2018年7月から取り組んできました。英語 e-learning 学習は、PC、スマートフォン、タブレットを使用するので、教員と学生の接点が希薄な、無機質な学習行為であるといえます。筆者は e-learning の弱点を克服するための実践研究と共にe-learning の利点に着目した研究も進めてきました。

本学が導入した英語 e-learning システムでは、学生の学習時間、進歩状況、英語力の弱点をシステムが的確に把握し、個々の学生にフィードバックすることができます。これは個別指導に近い学習形態といえます。学生は、e-learning システムからの情報を上手に活用することにより、学習効果を上げることができます。一斉授業では、教員による個々の学生への個別指導は限定的となりますが、e-learning システムでは、完全な個別指導が可能なのです。

筆者は、個々の学生のe-learning での問題演習における正答率、スコア分布、学習時間とスコアの相関関係、本学における学部、学科・専攻別、また学年別の学力傾向などを、様々な側面から把握できました。2020年度と2021年度は、英語教育研究所としては、かなり徹底して全学への e-learning の周知を行ったにもかかわらず、多くの授業がオンラインということもあり、学生の e-learning 利用状況は、あまり活発とはいえません。2022年度は、さらに周知を徹底し、学生の e-learning 利用を促し、より多くのデータを集積し、その分析も行っていく予定です。

2019年度から始まった本研究は、本学での英語教育に関するリメディアル教育に生かすための研究にも着手しました。現在、本学を含む多くの大学でリメディアル教育が行われています。その方法は、入学前教育、初年次教育、補講授業など様々です。しかし、これらの教育の多くは、中等教育で行われてきた学習内容の再教育に重点が置かれています。実際のところ、中等教育課程で習得ができなかった学習内容を、中等教育と同じ方法で学ばせようとしても、そこには無理があります。

英語のリメディアル教育の基本は語彙力をつけることです。Academic Express 3 では、20,000語以上の単語データベースがあります。学生が知らない単語を洗い出せるシステムにより、苦手な単語に集中し、効率よく語彙力を伸ばせます。学習した全ての単語を確認できる仕組みもあります。この仕組みを利用すると、単語の意味、スペル、品詞などはもちろんのこと、仕分けの状態、学習日、正解度などが一覧で確認できます。

Academic Express 3 では、習熟状況を Vocabulary、Grammar、Reading、Listening の4つのコンテンツで連動させています。一つの言葉を異なる文脈、多面的なアプローチで反復的に学ばせることができますので、総合的な英語力を育むことができます。これは何度も学ぶ、多方面的に学ぶのでラウンドメソッドとよばれている方法です。例えば文法問題を解き、それを間違えた場合、それは文法がわからないために間違えたのか、あるいは単語がわからなかったために解けなかったかを判断できる仕組みです。 本学の場合、中等教育における講義形式の教員主導型の対面式授業では、十分な英語力を習得できなかった学生が多数入学しています。英語のリメディアル教育として英語 e-learning を活用することにより、自分の習熟度のレベルに合った教材で、学生の自律学習を促すこともできます。英語 e-learning 学習を通じて、語彙力、文法力、読解力、聴解力などの英語力を、高等教育を受けるために必要なレベルまで高めることができます。今後は、今までに収集することができた学部別、学科・専攻別のデータから、英語のリメディアル教育としての英語 e-learning 活用の可能性も考察したいと考えております。

著者紹介

服部孝彦(はっとり・たかひこ)

本研究所所長、本学教授。

初等・中等・高等教育を日米両国で受けた元帰国子女。言語学博士(Ph.D.)。大妻女子大学助教授、米国ケンタッキー州立ムレー大学(MSU)大学院客員教授を経て現職。早稲田大学講師、米国セント・ジョセフ大学客員教授を兼務。国連英検統括監修官、JSAF-IELTS アカデミック・スーパーバイザー、文部科学省SGH企画評価会議およびWWL企画評価会議メンバーとして、我が国のグローバル化推進の中心として活躍している。元NHK英語教育番組講師。著書に文科省検定中学英語教科書『ニューホライズン』(共著、東京書籍)ほか、著書は180冊以上。日本に本拠地を置く現在でも日米間を頻繁に往復しながら、米国の大学での講義・講演、国際学会での研究発表を精力的にこなす。