大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

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研究所だより

20号(2021年冬号)e-learning の歴史

服部孝彦


 「研究所だより」20号では、まず本学における英語 e-learning の研究環境について述べ、続いてこれまでの英語 e-learning の歴史について述べます。本学では、学生の自律的な学習を通して、英語の語彙力、文法力、読解力、聴解力をバランスよく総合的に高めるために、本研究所が設立された2017年4月から、英語 e-learning の全学での導入が検討され始めました。市場で提供されている英語 e-learning の教材、5製品ほどを筆者が中心となり本研究所の教員で比較・検討しました。その中からエル・インターフェース社が開発し、提供する Academic Express 3 を選定し、大妻学院の情報基盤整備計画として申請しました。2018年7月4日、大妻学院の情報戦略会議にて審査の結果、計画が申請の通り了承され、早速、同月より英語 e-learning 学習 Academic Express 3 が導入され、本学の全学生が利用可能となりました。これにより、授業以外で、さらに英語を学びたいという学生の声に応えることができました。Academic Express 3 はPC、スマートフォン、タブレットに対応し、いつでも、どこでも取り組めるため、学習意欲の高い学生は自宅からでも気楽に利用できます。
 この英語 e-learning 教材の全学への導入により、英語 e-learning の問題点とその対応策、英語 e-learning の課外学習効果、英語 e-learning の発展的な指導法の構築などの研究ができる環境が整いました。e-learning の理論と実践、英語 e-learning 教材の開発に関する書籍は、順次揃えております。「研究所だより」20号では、以下、e-learning 研究の基礎となる e-learning の歴史について述べます。

 まずe-learning に至るまでの学習一般の変革を見てみます。デジタルデバイスが一般的になるまではアナログ時代です。学習の形態はいわゆる集団授業、集団研修の形式が通常でした。多くの学習者が1つの場所に集まり、テストの採点や学習状況の確認も人の手によって行われていました。このやり方では時間やコストの面で非効率が多く、新たな学習形態が模索されました。そしてデジタル化・電子化の第一歩として CD-ROM を活用した学習形態が構築されるようになりました。これは CD-ROM の大容量である特徴を生かしたもので、各個人が自由に場所や時間を選択できること、何度も再生できることなどがメリットとしてあげられました。しかし、一度配布してしまうと内容の修正が難しいこと、学習者の学習状況を確認できないことなどの課題があり、より柔軟に対応でき、さらに受講者との双方向性を持った形態が必要とされてきました。こうした流れを受けて誕生したのが e-learning です。
 米国では1996年にクリントン政権で Technology Literacy Challenge という教育政策が始まり、1999年に発足した WEB-Based Education Commission が2000年12月発表した The Power of the Internet for Learning という IT 教育プランの提言によりインターネット関連のインフラ整備が急速に進み、大学や大学院、そして高校での教育へと応用されました。e-learning が特に大学で人気を高めたのは、米国の国内事情として25歳から50歳までの社会人学生が多かったせいだとされています。事実Business to Consumersの学校教育よりBusiness to Businessの企業教育の方が普及は早かったのは事実です。これはKnowledge Management(知識管理)、Competence Management(能力管理)、Learning Management System(学習歴管理システム)等の企業内管理が e-learning で行うのに適合していたためです。
 日本国内では、1994年度から始まった「百校プロジェクト」、そして5年以内に世界最先端のIT国家になることを目指した2001年の「e-Japan戦略」によりインターネットインフラが整備されました。このことにより、日本では2000年が e-learning 元年とされています。「e-Japan 戦略」は、人材育成の強化として特定分野の IT 人材の育成と国民の情報リテラシーの向上がその目標として掲げられていましたが、この後2003年の「e-Japan 戦略Ⅱ」でその利活用を、2005年度の「IT政策パッケージ」では問題点の克服と利活用の更なる促進がその目標となりました。日本の e-learning でも米国同様、企業の動きが先で、大学等の教育機関は遅れて始まったといえます。

著者紹介

服部孝彦(はっとり・たかひこ)

本研究所所長、本学教授。

初等・中等・高等教育を日米両国で受けた元帰国子女。言語学博士(Ph.D.)。大妻女子大学助教授、米国ケンタッキー州立ムレー大学(MSU)大学院客員教授を経て現職。早稲田大学講師を兼務。国連英検統括監修官、JSAF-IELTS アカデミック・スーパーバイザー、文部科学省WWL企画評価会議メンバーとして、我が国のグローバル化推進の中心として活躍している。元NHK英語教育番組講師。著書に文科省検定中学および高校英語教科書ほか、著書は190冊以上。日本に本拠地を置く現在でも日米間を頻繁に往復し、米国の大学での講義・講演、国際学会での研究発表を精力的にこなす。