大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

MENU

研究所だより

第14号(2020年夏号)ライティングとコミュニケーション

服部孝彦

「研究所だより」14号では、英語のライティングと英語を使ったコミュニケーションについて理論的に考察します。

 コミュニケーションをするというのはスピーキングに限られるのではなく、当然のことながらライティングも含まれます。ライティングとは、読み手があってなされる行為です。Widdowson (1983) は、ライティングは意味交渉の過程をたどるものであると述べています。スピーキングの場合は、聞き手と話し手が音声を使って意味交渉をしますが、ライティングの場合はスピーキングにおける聞き手に相当する読み手が目の前にはいません。そこで書き手が自ら読み手を想定し演じながら進めることになります。スピーキングにおける聞き手とは違い、ライティングにおける読み手のことは、書き手はよくわからないことも多いです。従がって書き手は自分の考えを明確に伝えるように意識しながら書く作業を行うことになります。書き手は常に自己対話をしながら文章を書いていくといえます (大井他, 2008)。

 ライティングの全体像をGrabe & Kaplan (1996) は (1) 言語面、(2) 文章構成面、(3)周辺面、(4) 内容面、(5) プロセス面の5つに分類しました。言語面とは語彙や文法の知識、文章構成面とはパラグラフ構成の知識および結束性と論理的一貫性、周辺面とは読み手を意識したり書く目的を理解すること、内容面とは文章が明晰であること、プロセス面とはアイディアを創出したり拙稿を繰り返すことです。パラグラフ・ライティングに関係するのは文章構成面です。本稿では、文章構成面の中の論理的一貫性に焦点をしぼります。

 Brain (1890) は英語の文章を (1) 語り文、(2) 描写文、(3) 説明文、(4) 論証文に分類しました。この分類方法はWoodson (1979) をはじめ多くの研究者たちに踏襲されています。(3) の説明文には特徴的なパラグラフの展開方法があるため、パラグラフ・ライティングの教材は説明文を扱うことが多いです。説明文の論理的一貫性の展開方法としては (1) 時間順、(2) 原因・結果、(3) 総論・各論、(4) 比較・対照、(5) 分析・分類、(6) 定義 をあげることができます (木村他, 2010)。そしてそれぞれのタイプの文章には効果的な展開方法があります。いずれの展開方法を用いてパラグラフを書くにせよ、論理的に一貫性があることが前提となります。

参考文献
参考文献 Bain, A. (1890). English Composition and Rhetoric. (American Edition). NY: D. Appleton & Co.
Grabe, W. & Kaplan, R. B. (1996). Theory and Practice of Writing. NY: Addison Wesley Longman.
Widdowson, H. G. (1983). Learning Purpose and Language Use. Oxford: Oxford University Press.
Woodson, L. (1979). A Handbook of Modern Rhetorical Terms. Urbana, IL: National Council of Teachers of English.
大井恭子、田畑光義、松井孝志 (2008). 『パラグラフ・ライティング入門:中高での効果的ライティング指導のために』大修館書店.
木村博是、木村友保、氏木道人 (2010). 『英語教育体系第10巻リーディングとライティングの理論と実践: 英語を主体的に「読む」・「書く」』大修館書店.
著者紹介

服部孝彦(はっとり・たかひこ)

本研究所所長、本学教授。

初等・中等・高等教育を日米両国で受けた元帰国子女。言語学博士(Ph.D.)。大妻女子大学助教授、米国ケンタッキー州立ムレー大学(MSU)大学院客員教授を経て現職。早稲田大学講師、米国セント・ジョセフ大学客員教授を兼務。国連英検統括監修官、JSAF-IELTS アカデミック・スーパーバイザー、文部科学省SGH企画評価会議およびWWL企画評価会議メンバーとして、我が国のグローバル化推進の中心として活躍している。元NHK英語教育番組講師。著書に文科省検定中学英語教科書『ニューホライズン』(共著、東京書籍)ほか、著書は170冊以上。日本に本拠地を置く現在でも日米間を一年に何往復もしながら、米国の大学での講義・講演、国際学会での研究発表を精力的にこなす。