大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

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研究所だより

第13号(2020年春号)アカデミック・イングリッシュ入門

服部孝彦

「研究所だより」1号から12号ではコミュニケーションのための英語という視点から英語学習の連載をしました。この13号からは、本学の学生がアカデミック・イングリッシュの力をつけるために役立つ内容についての連載をします。

 グローバル化の進展で、我が国にとって世界で活躍するグローバル人材育成は急務です。文部科学省も海外留学をする高校生や大学生の留学経費支援を強化し、海外留学を促進していますが、日本人の海外留学者数は世界の動向とは反対に減少しています。留学をすることにより、同世代の外国人と意見交換をし、多様な価値観に触れ、国際的な視野の涵養および異文化理解を推進することができるのはいうまでもありません。外国人とのコミュニケーションには国際共通語としての十分な英語の力を持っていることが必須条件です。さらに、留学を成功させるためには英語の4技能の力と共に論理的思考力も必要です。しかし英語の4技能と論理的思考力を育成し、真の英語コミュニケーション能力を習得するための中高大連携のアカデミック・イングリッシュの力を育成するための指導法および教材の開発に関する研究は十分とはいえません。

 留学先の教育機関では、日本の中学・高校を卒業し英語圏の高校・大学に進学した場合も、また日本の大学在学中に英語圏の大学に長期留学した場合でも、留学先では専門書を大量に読んだり、クラスで討論をしたり、リサーチをしてアカデミックなスタイルでレポートを書いたりできる英語力が必要です。留学するために必要とされるアカデミック・イングリッシュの力とは、日常英会話力やビジネス英語力とは異なり学術分野で必要とされている英語力です。特に英語圏の大学や大学院では、授業への積極的な参加や貢献が強く求められます。授業では頻繁にディスカッションが行われ、論理的で説得力のある発言が求められます。日常会話ができるといった程度の英語力ではとても通用しません。レポートも論理的な構成を重視した書き方ができる必要があります。日本の高校を卒業後すぐ、または大学生や大学院生が在学中に英語圏の大学や大学院で留学を成功させるためには、アカデミック・イングリッシュの力を十分に身につけていることが必須条件です。

 「研究所だより」13号からは、アカデミック・イングリッシュの力を、パラグラフ・ライティングを中心に基礎から発展へと系統的に育成するための教材開発についての考察をします。最近は、パラグラフ・ライティングを扱う英語教材も増えてきましたが、それらの教材は、英語のパラグラフの特徴を述べ、モデルとなる英語のパラグラフを示して、それにならう形でパラグラフを書くといったものが主流です。市販のパラグラフ・ライティングの教材を使うと、1文1文を書くセンテンスのレベルから一挙に英語のパラグラフの書き方へと飛躍してしまうだけでなく、パラグラフを書く前提となるブレーン・ストーミングをした後の情報整理をする力の育成も十分にはできないことになります。情報を整理した上で1文1文を書くレベルから、まとまった英語の文章を書くパラグラフへの橋渡しを丁寧に扱う教材はほとんどみあたりません。情報整理からパラグラフへの段階を無理なく丁寧に指導することにより、論理のつながりを学習者に理解させることができます。その意味から、情報を整理する学習からパラグラフを書く学習へと橋渡しをする教材の開発は早急に行う必要があります。「研究所だより」14号からは、パラグラフ・ライティングの基礎となる情報整理の力を育成することに焦点をしぼった教材の開発を行います

著者紹介

服部孝彦(はっとり・たかひこ)

本研究所所長、本学教授。

初等・中等・高等教育を日米両国で受けた元帰国子女。言語学博士(Ph.D.)。大妻女子大学助教授、米国ケンタッキー州立ムレー大学(MSU)大学院客員教授を経て現職。早稲田大学講師、米国セント・ジョセフ大学客員教授を兼務。国連英検統括監修官、JSAF-IELTS アカデミック・スーパーバイザー、文部科学省SGH企画評価会議およびWWL企画評価会議メンバーとして、我が国のグローバル化推進の中心として活躍している。元NHK英語教育番組講師。著書に文科省検定中学英語教科書『ニューホライズン』(共著、東京書籍)ほか、著書は170冊以上。日本に本拠地を置く現在でも日米間を一年に何往復もしながら、米国の大学での講義・講演、国際学会での研究発表を精力的にこなす。