大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

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研究所だより

第12号(2019年冬号)日本人に求められる英語コミュニケーション力とは

服部孝彦

「研究所だより」1号から続きましたコミュニケーションのための英語の連載も、この12号で一つの区切りをつけたいと思います。今まで学習したポイントを整理してみましょう。
 コミュニケーション能力の構成要素は (1) 文法的能力、(2) 社会言語学的能力、(3) ディスコース能力、(4) 方略的能力の4つに分けることができました。(1) の文法的能力とは、文字通りの意味を正確に理解し表現するための能力です。文法的能力については、音声面で正しく英語を操ることができることに焦点をあて、英語のリズムに関する学習をしました。(2) の社会言語学的能力とは相手や場面に適した表現を使える能力です。社会言語学的能力については、言語使用における対人関係の機能に焦点をあて、英語の「丁寧さ」に関する学習をしました。(3) のディスコース能力とは、文の単位をこえ、話の内容に一貫性や結束性を持たせることができる能力です。ディスコース能力については、論理的な思考力に焦点をあて、英語のパラグラフに関する学習をしました。(4) の方略的能力とはコミュニケーションの過程で起こるさまざまな障害に対処し、コミュニケーションをうまく進めることのできる能力です。方略的能力については、会話を持続することに焦点をあて、パラフレーズの方法に関する学習をしました。
 日本人のなかには、英語学習の最終目標として英語のネイティブ・スピーカーのようなきれいな発音で流暢に英語を話すことをあげる人がいます。そしてそのために膨大な時間とエネルギーを費やしたりしています。しかし私はそのような英語力は日本で生まれ育った日本人が身につけるべき英語力ではないと考えています。
 私は毎年、アメリカで開催されますいくつもの国際学会の研究大会で研究発表や講演をさせていただく機会があります。アメリカで開かれる学会であっても話す相手が英語のネイティブ・スピーカーとは限りません。世界中から集まった研究者がそれぞれのお国訛りの英語でコミュニケーションをする姿が国際学会では当たり前です。英語を母語としない人々が国際語である英語を使ってコミュニケーションをするのが日常的となっているわけです。このような時代に英語のネイティブ・スピーカーのような発音ができるように努力する必要性はあまり感じません。
 それではこれからの日本人にとって最も大切な英語コミュニケーション能力とはいかなる力なのでしょうか。その力は2つあると考えられます。まず第1に、相手に不快な気持ちを持たせることのない敬意表現を使いこなせること、すなわち社会言語学的能力を身につけることです。もう一つは自分の伝えようとしている内容が相手にしっかり理解されるような論理で話したり書いたりできること、すなわちディスコース能力を身につけることです。
 英単語を覚えて、英文法を理解し、英語を日本語に訳すことができるような文法的能力が身についても、これからの日本人に求められる英語コミュニケーション能力が身についたとはいえません。文法的能力は大切な能力ですが、コミュニケーション能力の一部にすぎません。話す英語に多少の日本語訛りがあろうとも、また英語のネイティブ・スピーカーのように流暢に英語を話すことができなくても、社会言語学的能力とディスコース能力が十分に育成された人であれば、その人は国際的に通用する英語力を立派に身につけているといってもよいでしょう。グローバル時代に生きる学生の皆さんには、十分な社会言語学的能力とディスコース能力を身につけていただきたいと思います。

著者紹介

服部孝彦(はっとり・たかひこ)

本研究所所長、本学教授。

初等・中等・高等教育を日米両国で受けた元帰国子女。言語学博士(Ph.D.)。大妻女子大学助教授、米国ケンタッキー州立ムレー大学(MSU)大学院客員教授を経て現職。早稲田大学講師、米国セント・ジョセフ大学客員教授を兼務。国連英検統括監修官、JSAF-IELTS アカデミック・スーパーバイザー、文部科学省SGH企画評価会議およびWWL企画評価会議メンバーとして、我が国のグローバル化推進の中心として活躍している。元NHK英語教育番組講師。著書に文科省検定中学英語教科書『ニューホライズン』(共著、東京書籍)ほか、著書は170冊以上。日本に本拠地を置く現在でも日米間を一年に何往復もしながら、米国の大学での講義・講演、国際学会での研究発表を精力的にこなす。