大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

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研究所だより

第1号(2017年春号)英語のリズム(1)

服部孝彦

日本人はなぜ英語の聞き取りが苦手なのでしょうか。学生諸君の中には、英語には日本語にない音があるので、その音が上手に聞き取れないためだと考えている人が多くいます。もちろん、これは英語が上手に聞き取れない理由の1つです。しかし英語が聞き取れない最大の理由は、日本語とは異なる英語のリズムに慣れていないからなのです。

リズムとは、音声の流れの中で強く発音される部分と弱く発音される部分とが規則的に繰り返される現象のことです。日本語は各音節が等しく、平坦に発音されリズムが作られています。このリズムのことを専門用語で音節拍リズムといいます。一方英語は、強く発音される部分と弱く発音される部分の組み合わせによってリズムが作られています。これは専門用語で強勢拍リズムといいます。具体例をみてみましょう。

「本出張所の窓口は平日の午前9時から午後5時まで開いております」と日本語で言う場合の「9時から5時まで」はku-ji-ka-ra-go-ji-ma-deと平坦にかつ8つの音節を皆ほぼ等しい時間で発音します。特に強く発音したり弱く発音したりする部分はありません。これに対し英語のfrom nine to fiveではnineとfiveを強く、fromとtoを弱く発音します。すなわち弱・強・弱・強というリズムで発音されるわけです。

英語では強く発音される部分と、次に強く発音される部分がほぼ等しい間隔で現れます。このことによって日本語とは違ったリズムが生まれます。この英語のリズムに慣れること、すなわち強・弱のついたリズム感を身につけることこそが英語の聞き取り力を伸ばすための近道なのです。

もちろん英語の個々の音の学習はとても大切です。しかし個々の音の習得と並んで重要なのは英語のリズム感の習得なのです。日常的なコミュニケーションの場面を考えますと、会話の内容には話の流れがあります。そのため、たとえ個々の発音を間違えても多くの場合、前後関係から聞き手は話し手が何を言わんとしたかを類推することができるのです。具体例をみてみましょう。

英語を使って日本人とアメリカ人が貿易に関する話している場合、日本人が「自由」という意味のfreeを使いfree tradeと言うべきところを「ノミ」の意味のfleaの発音をしてしまいflea tradeと言ったとします。このような時、話を聞いているアメリカ人は日本人が [r] と [l] の発音を間違えたのだと瞬時に判断してくれることでしょう。文脈から「自由貿易」であることは明らかですので、「ノミを交換する」と解釈することはまずありません。

英語の個々の音の習得とリズム感の習得は車の両輪のようなもので、どちらが欠けても通じる英語を話せるようになったり、聞き取ったりすることはできません。この「研究所だより」では、英語らしく聞こえるように話す力と、自然な速さの英語が聞き取れるようになるための力をつけるために必要な英語のリズム感を身につけることから学習をはじめます。

英語を一からやり直そうと考えている学生から、大学卒業後は英語を使って世界に羽ばたこうと考えている学生まで、様々な英語力の学生を想定し、どのレベルでも役に立つ内容の解説をします。英語があまり得意ではない学生にもよく理解できることを念頭においておりますので、専門用語は極力使わず、解説もできる限り具体例を多く使いわかりやすくします。なおこの「研究所だより」は季刊で1年に4回、英語教育研究所から発行されます。

著者紹介

服部孝彦(はっとり・たかひこ)

本研究所所長、本学教授。

初等・中等・高等教育を日米両国で受けた元帰国子女。言語学博士(Ph.D.)。大妻女子大学助教授、米国ケンタッキー州立ムレー大学(MSU)大学院客員教授を経て現職。早稲田大学講師、米国セント・ジョセフ大学客員教授を兼務。国連英検統括監修官、元NHK英語教育番組講師。著書に文科省検定中学英語教科書『ニューホライズン』(共著、東京書籍)ほか、著書は150冊以上。日本に本拠地を置く現在でも日米間を一年に何往復もしながら、米国の大学での講義・講演、国際学会での研究発表を精力的にこなす。