大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

大妻女子大学英語教育研究所 The Institute for Research in English Education

MENU

研究所だより

第5号(2018年春号)コミュニケーション能力とは

服部孝彦

春号では、コミュニケーション能力に関する理論について学びます。理論といいましても、言語学者が研究しております理論のための理論ではありません。英語を学習する上で知っておかなくてはならない理論を分かりやすく学びますので、難しいことはありません。
 コミュニケーション能力理論によりますと、コミュニケーション能力は、いくつかの構成要素に分けることができます。現在最も新しいといわれているコミュニケーション能力に関する理論は、バックマンとその共同研究者のパーマーという学者たちのものです。しかし、この理論はやや専門的すぎて多少わかりにくいところがありますので、ここでは語学教育の実践者の間で最もよく知られ、また比較的わかりやすいカナルという学者のものを使って説明することにします。それはコミュニケーション能力の解明はカナルの理論が発表された後も進みましたがコミュニケーション能力の構成要素そのものは、カナルの理論と大きく変わっていないからです。
 カナルによればコミュニケーション能力は大きく4つの構成要素に分けられます。この4つの構成要素とは (1) 文法的能力、(2) 社会言語学的能力、(3) ディスコース能力、(4) 方略的能力です。構成要素の名前だけ聞くと何だか難しそうですが、決して難しいことはありません。順番に説明していくことにします。
 皆さんが中学校と高等学校の英語の時間に学んだのは、主に (1) の文法的能力です。文法的能力とは、語彙、語形成、文形成、発音、綴りなどが含まれ、文字通りの意味を正確に理解し表現するための能力のことです。文法的能力さえ身につけば英語が出来るようになると考えていた人も多いのではないかと思います。しかし、実際のコミュニケーションの場面では、文字通りの意味を理解し、表現をする文法的能力だけでは不十分なのです。
 (2) の社会言語学的能力も身につけていないと、誤解をうけたり、恥をかいたりすることもあります。社会言語学的能力とは相手やその場に合った適切な表現が使える能力のことです。英語には、honorificsとよばれる日本語やハングル、ベトナム語などにみられる体系的な敬語はありません。しかし、丁寧であろうとする表現は数多くあります。コミュニケーションにおいて社会的状況に応じた言語使用が出来る能力、すなわち社会言語学的能力はとても大切であるといえます。
 次に (3) のディスコース能力について考えてみましょう。ディスコース能力とは、意味のある全体を組み立てられる能力のことです。文の単位をこえ、話の内容に一貫性や結束性を持たせることができる論理的思考力に直結した能力です。相手を説得しなくてはならないときなどには文法的能力だけでは不十分です。ディスコース能力を身につけていることが必須となります。
 最後に (4) の方略的能力について考えてみることにします。方略的能力は文法的能力、社会言語学的能力及びディスコース能力の3つの能力を補助している能力です。ことばで上手に表現できないときにジェスチャーを使ったりすることなどがその一例です。
 以上4つのコミュニケーション能力の構成要素につてみてきました。文法的能力は大切ですが、それはコミュニケーション能力の1つの構成要素にすぎないということを理解していただけたと思います。次号からは、それぞれの構成要素について、具体例と共にさらに詳しくみていくことにします。

著者紹介

服部孝彦(はっとり・たかひこ)

本研究所所長、本学教授。

初等・中等・高等教育を日米両国で受けた元帰国子女。言語学博士(Ph.D.)。大妻女子大学助教授、米国ケンタッキー州立ムレー大学(MSU)大学院客員教授を経て現職。早稲田大学講師、米国セント・ジョセフ大学客員教授を兼務。国連英検統括監修官、元NHK英語教育番組講師。著書に文科省検定中学英語教科書『ニューホライズン』(共著、東京書籍)ほか、著書は150冊以上。日本に本拠地を置く現在でも日米間を一年に何往復もしながら、米国の大学での講義・講演、国際学会での研究発表を精力的にこなす。